マリアンヌ

レディースデーだというのに映画館はガラガラ、控えめに言ってもご高齢なご婦人方しかいらっしゃらず大丈夫か!?なんて思ったりもしましたが…。

ともあれブラッド・ピットとマリオン・コティヤール主演の『マリアンヌ』(原題;ALLIED)を観て参りましたので、ネタバレを含みつつ感想を。

 

鑑賞直後のつぶやき。

 

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最後はすこし泣いたけど、いわゆる"泣ける映画"カテゴリではないと思います。

「ラブストーリー?泣ける?あっそ〜」くらいに思ってる方こそ観てみてほしいです。むしろ"泣ける映画"と思って観に行くと肩透かしを食らいそう。同じゼメキス監督作の『フォレスト・ガンプ』と似てるといえば似ている空気感でした。

淡々としているわりにちょくちょく派手なカットや「どっちなの?どっちなの?」っていう描写などのスパイス的なシーンが入るからか、あっという間に観終わってしまった印象。


全体的に一歩引いたような感じで淡々と描かれてるので、ラブストーリーと呼ぶのも個人的には違和感があって、かと言ってサスペンスと呼ぶにはマリアンヌ(マリオン・コティヤール)が彼女自身の演技力とミステリアスさも相まってあからさまに怪しく見えるし。

カサブランカを舞台に2人が惹かれ合う描写や、イギリスのハムステッドで幸せな家庭を育む描写はそんなに濃密じゃない(このあたりがラブストーリーじゃないよねって思う所以)し、マリアンヌは結局どの立場だったの?っていうのは答えが出ないままだしで、その辺りモヤっとする方はいらっしゃるかもしれません。


この映画、マックス側の心の機微は結構丁寧に描かれていて、それに対してマリアンヌ側の心情描写は、明らかにというか意図的にというか欠落しています。マックスがマリアンヌに惹かれた理由は山ほど見つかるのに、マリアンヌがマックスに惹かれた理由がいまいち分からないような造りになってるんですよね。それは決してマックスに魅力がないということではないですよ(笑)

映画の中で、マリアンヌの"正体"について明言されることはありません。もしかすると、カサブランカでマックスと出会う以前から彼女はドイツの手先で、スパイするためにマリアンヌ・ボーセジュールという女性になりすまし、マックスと出会うよう仕向けたのかもしれません。もしくは彼女がマックスに弁明したように、たまたま子どもを預けた乳母がドイツ側の人間で、脅されて仕方なくスパイ行為に走ったのか。

しかしよくよく考えてみれば、もともとスパイだったのでなければ彼女がマリアンヌに成りすます必要もメリットもなかったわけです。なにせマリアンヌ(オリジナルの)はレジスタンスのリーダーとして有名な女性ですから、マリアンヌを名乗ることで危険にさらされる確率は高いはず。そう考えるとマリアンヌは、マックスと出会う前からドイツ側の人間であり、スパイ活動の一環としてマックスと出会ったと考えるのが自然です。

そのくらいのことはマックスにも分かるはずですが、彼はきっと、娘を出産するときにマリアンヌが発した「神に誓って、今ここであなたの前にいる私がすべて」という言葉を心から信じていたのです。なぜなら彼女は「感情には嘘はつかない」から。だからこそ、マックスはマリアンヌと逃げることを選び、なおかつ彼女の死に際して涙を浮かべたのでしょう。

カサブランカの家の食卓で、マリアンヌはマックスを誘いますが、彼はそれを拒みます。そしてマリアンヌは、任務はセックスによって失敗するのではなく感情によって失敗するのだ、と返します。これは彼女の"スパイとしてマックスに接近する"という任務自体が、彼女がマックスを愛し始めてしまったゆえに失敗したという意味で言っているような気がしました。

 

原題である"ALLIED"は、結びつき/同盟といったような意味あいですが、これがこの映画の全てを表しています。第二次世界大戦下という状況で、連合国側の中佐と枢軸国側のスパイとして出会った2人が、愛という何物にも代え難い感情によって深く結ばれる。文字にすると安っぽいけれど、そういうストーリーです。

結局のところ、この映画、一度疑い始めたら全てが怪しく思えて全てが信じられなくなって、それでも信じたい気持ちは確かにあって、そんな立場に置かれたときに人はどういう行動を取るのか?最後まで心の真ん中にあるのは何なのか?っていう、かなり古典的なテーマがメインなんだと思います。 

でも、個人的にはマリアンヌはちょっと怖いなって思ったりもしました。自分の感情に嘘をつかないということだけを信条にしているところが…。まあ第二次世界大戦中が舞台なので、時代に翻弄されたとも言えるし、それだけマックスに惹かれたということでもあるのですが。

 

ところでこの作品、室内の様子や衣装がめちゃくちゃ美麗で大興奮でした。
マリアンヌの鏡台やら箪笥、ハムステッドの家の内装など、何時間見ていても飽きないんじゃないか?という造り込みようなのに、どれも少ししか映らずあくまで背景に徹しているというニクさ!タジン鍋には誰もが目を奪われたはずです(笑)
あと、さり気ないシーンではありますが、折に触れ主人公たちがお茶を飲んでいる描写がなんか印象的でした。カサブランカにて、マックスがマリアンヌの家へ案内された直後とか、マックスが上司に呼ばれるシーンの前とか、あとは棚に飲んでる途中のカップを置くシーンもありましたね。

 

映画冒頭で"紫色のドレス""ハチドリ"という目印だけを頼りに妻役の女性を探すマックスの目にハチドリの刺繍の布が飛び込んできて、そしてマリアンヌが振り向くそのシーンだけで、この映画はすごく美しくて精密だなって思いました。

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このシーンに続く、初めて会った瞬間に愛し合う夫婦役を演じるマックスとマリアンヌの会話のシーンにも惹きつけられました。

 

 

この作品でマリオン・コティヤールの虜になった方におすすめの、美しくて怖いマリオンを拝める作品たち。

 

3月3日公開予定の映画版『アサシンクリード』のトリオ(監督、マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール)第1作も是非。

 

以下、ロバート・ゼメキス監督作品。

子どもの頃に観たときは寝そうなくらい退屈だった(ごめんなさい…)けど、大人になって観たら味わいがあってすごく面白かった。

 

言わずとしれた名作。